【中原昌也JGweb連載】新宿~四谷で一時間考えたこと(3)
本誌連載「御苑人」出演をきっかけに、JG編集部のお手伝いをしていただくことになった、小説家・音楽家・映画評論家・イラストレーターの中原昌也さんが、のらりくらりと「一時間を新宿~四谷のどこかで過ごす」を実践!
前回の原稿を書いてから、早いもので数日が経った。
あれからは自著の新刊の印刷が上がってきたり、週末は出演したイベントがいくつかあったりして激務が続いたので、わざわざ暇を潰そうなどという考えはまったく湧いてこなかったのである。
週が明け、突然時間ができた。たった一時間だけでなく、全体的に暇だ。
なので、わざわざ新宿御苑に行こうとしたが、月曜だったので閉館していた。
仕方なく、四谷図書館の一階にあるリサイクル品などを扱う「ふらっと新宿 四谷店」に行ってみた(図書館も休館だったので!)。ここはなかなかの穴場でよかったのだが……、久々に行ったら文庫本コーナーが、思い切り縮小されていたのでガッカリした。
以前は一冊10円から50円程度で、創元のハドリー・チェイスが揃った。ミステリーやSFがやたらとあった。コジンスキーの『異端の鳥』の文庫本版も、数十円で買ったはず……人にあげたてしまったけど。
スカスカの棚にハイラインの『愛に時間を』の2巻目だけ、とかウォルター・ヒルの『ダブル・ボーダー』のノベライズがあるだけで、あとは有効期限切れの実用書が数冊あるのみ。その中から東京経済大学編の『コミュニケーション小辞典』という1995年発行の、実に情報の古い小冊子(非売品)をレジに持って行った。ついでに森永のキャラメルが、同じ棚にあったのでそれも買おうとしたら、小冊子はタダだった。
図書館の裏のベンチで、『コミュニケーション小辞典』のページを開く。メディア絡みの用語解説が多いが、二十年前の本らしく、やはり情報は古め。真面目に読む必要はない。
そんなことを考えながらパラパラと斜め読みしながら、森永のキャラメルをポケットから取り出した。「あずきキャラメル」という味だ。
食べてみて「まんま、あずきの味だが、キャラメルの味はしない」と感じた。
そのうちに一時間は過ぎた。
【続く……】
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