ヴィヴィアン佐藤×枝優花(映画監督)対談【本誌連載『ヴィヴィの部屋(Booth)』vol.1拡大版】(前編)
新宿在住のアーティスト・ヴィヴィアン佐藤さんが、日頃から利用している歌舞伎町のインターネットカフェ&カプセル「Booth Net cafe & Capsule」に若手クリエイターを招き、対談する本誌新連載『ヴィヴィの部屋』の拡大版。
第1回目のゲストは、映画監督の枝優花(えだゆうか)さん。昨年、自身初の長編映画『少女邂逅』が新宿武蔵野館で9週間にわたるロングランを記録。作品の舞台は、枝さんの生まれ育った群馬県高崎市。人間関係がうまくいかなかった14歳の頃の実体験をもとに、いじめをきっかけに声が出なくなった女子高生が転校生の女の子と出会い、気持ちが変化していく様子を描いた同作品。ヴィヴィアンさんはどう読み解いた?
■「知らないまま大人になって価値観が固まる前に、若い子たちの可能性を広げたい」(枝さん)
ヴィヴィアン佐藤(以下、ヴィ):最近はマンガ原作や、キャストが順列組み合わせでお馴染みの顔ぶれという映画が多いなか、若手の役者さんをそろえ、世界観をきちんと表現する枝さんは、商業的とは違う別の可能性を模索しようとしているところが素晴らしいわ。
枝優花(以下、枝):ありがとうございます。「シネコンで流れるような商業的な映画を撮れるように頑張れ」というような声もよく掛けられますが、果たしてそこがゴールなのかなという疑問は常に感じています。
ヴィ:そういう、日本映画に対して強い思いを持っている方だと感じました。
枝:私は14歳のときに岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』を観て、カルチャーショックを受けて日本映画にのめり込んだのですが、同じように私の作品がいまの10代の子たちの経験のひとつになるといいなと思っています。
ヴィ:『少女邂逅』は岩井さんやコッポラの『ヴァージン・スーサイド』も想起しましたが同時代性といいますか、いま撮られているものだからこそいまの高校生たちが等身大のものに共感することに価値があるものだと思いましたね。実際、お客さんの反応はどうでしたか?
枝:普段、映画館に行かないような若い世代の子たちが多かったです。ある高校生の子は、1回目も2回目もひとりで観に来て、3回目はお小遣いが底をついたからお母さんを連れてお金を出してもらっていたり(笑)。実際に女子校で教師をやっている方も何度も観に来てくれました。あと、引きこもりの娘をもつ母親が観に来て、2回目に娘を連れて来るというような、ひとりで観に来た人が、「観せたい」と思う人と2回目観に来るということも多く、そうやってこの映画は広がっていっていきました。よく映画監督が言う、「映画が公開すると自分の手から離れていく感覚」を徐々に味わいました。
ヴィ:本当はそんな風に作ったんじゃないのにと思うこともない? 社会派の映画ではないのにそう見られたり(笑)。
枝:そうです、個人的な話です(笑)。でも、それはそれで良いというか、作品が自分たちのものではなく、お客さんのものになったなと感じました。
ヴィ:『少女邂逅』をきっかけに、初めてミニシアターに行った子も多いんじゃないかしら。映画鑑賞が、どこで・どのように・誰と見たのか、という広がりを持つようになったいま、自分が気になると思った作品を映画館まで見に行くことはその人にとって大切な経験となるでしょうね。
枝:私の地元は映画館の数が限られていたので、動画配信サービスやDVDでの映画鑑賞をすることには賛成だし、その恩恵も受けていました。ただ、機会があれば、映画館で映画を観て、実際に体験することも重要かなと思います。若い子たちと接すると、「知らないけれどこれが良い」と思っている子が多くて。例えば、口コミサイトで評価が良ければきっと良い映画だろうと思ってその映画を観ずに終わるみたいな。評価に左右されずいろいろなことを知れば、「これも良いけれどほかも良い」と思えるはず。知らないまま大人になって価値観が固まる前に、そういう可能性を広げることをしたいです。
(撮影:高澤梨緒)
後編はこちら。