【第三番】子連れ狛犬と防火守護の地

本誌で異彩を放つ連載「迷所巡礼」のウェブ版。新宿〜四谷歴ウン十年のヴィヴィアン佐藤さんが、毎月その嗅覚をたよりに、エリア内の不思議な“迷所”の歴史をたどっていきます。今回は、新宿御苑前駅そばの「秋葉神社」へ。その名の由来から、境内のユニークな狛犬まで、あらゆる角度から、この場所にまつわるエピソードを紹介していきます。紫陽花の紫色がくっきり鮮やかに浮かび上がる、ちょっぴり暑い初夏のある日……。いつもよりも露出度の高い、ヴィヴィアンさんの衣装にも注目! それでは、いきましょう、今月の“迷所”へご案内。

オタクと電気の街、秋葉原の名前の由来とされる「秋葉神社」は、もともと静岡県浜松にある秋葉山の山頂付近の火防(ひふせ)の神「秋葉大権現」と、山の中腹の「曹洞宗秋葉寺」を勧請してきたものなの。江戸時代には伊勢参りに匹敵するほどの参拝者で、宗教的な互助会「秋葉講」まで結成されたくらいよ。

ほら、江戸時代と言えば、日本中の街が度重なる大火に見舞われていたでしょう? そこで、この火防の神社が江戸市中に建てられたワケよ。で、そのひとつが新宿一丁目にもあって、四谷消防署新宿御苑出張所と並んでひっそりと佇んでいるの(ちなみに、秋葉原にあった秋葉神社は入谷に移転しているみたい……)。ここは、季節によって小彼岸桜や夾竹桃、枇杷、あじさいが咲いていて、まるで都会のオアシスね。この空間に長く居ると、なんだか異世界に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥ってしまう……。ちなみに、隣りにある四谷消防署新宿御苑出張所は、江戸時代にあった火の見櫓(やぐら)の名残りとか。

さて、この秋葉神社には、火の神である「火之迦具土神」(以下カグツチ)が祀られているの。『古事記』によると、カグツチは、イザナギ神とイサナミ神の間に生まれた子で、この火の神であるカグツチを産んだ際に、イザナミは陰部を火傷して死んでしまったとか……(また、愛する妻を失ったイザナギは憤慨し、カグツチを十挙剣で斬り、その剣から滴り落ちた血からまた神々が生まれたとされているわ)。

そんな逸話を持つカグツチが祀られている、この神社の境内には、“子連れ”のユニークな狛犬が居るの。正面向って右の「あ」の方は子どもに髭をくわえられ、左の「うん」の方の子どもは珠の様なもので戯れているわ。まるで、かつて本当に生きて仲良くじゃれていたかのようなその姿は、見ていると愛着が湧いてくるくらいリアルなの。住宅事情で犬が飼えない方は、狛犬マニアになるのも良いかもね。あ、狛犬は犬ではなくって架空の生き物だったわね……。

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