滅びゆく演芸、“最後の”見世物小屋見物
かつては300軒以上、今ではたった一軒。現在も興行を続ける唯一の見世物小屋・大寅興行社さんが見物出来る機会さえも今では『花園神社 酉の市』だけとなってしまいました。その貴重なチャンス、行って参りました。
神社正面入り口入ってすぐ横手に、赤青白の縞模様をした毒々しい色合いのテント。おどろおどろしい絵柄の看板には、“サバイバルの女”など恐ろしげな文句がおどります。テントの真ん中は少しだけ開かれていて、中のお客さんたちの驚く顔だけが覗き見えます。その表情を背に、はっぴを着たおばさんが、テントをこわごわ眺める人々に向かって啖呵を切っています。
「アマゾネス・ぴょん子は人か獣かケダモノか……」
傍らには、蛇やニワトリの入った籠もあって、一体中では何が行われているのやら……。
お代は、大人800円、子ども500円、幼児300円の後払い。小さな入り口を入ります。
演目の内容については見てのお楽しみなのですが、5人の“太夫”たちがかわるがわる芸を披露していく流れです。場内は驚きっぱなしの時おり悲鳴混じり。目の前でめくるめく行われる不思議演芸に私の口も開きっぱなし。時間は約30分ですが、あっという間に感じました。
最近は動画サイトで、変わった芸を披露する人は簡単に見ることが出来ます。ですが、生の迫力はやっぱり違いますね。ひといきれの中、皆が息をつめて舞台を見つめるときの、はりつめた空気は格別です。それに忘れてはいけないのが、司会の魅力。お客さんの誘導、演目の進行をしながら、司会の女性(ステージの上は、獣以外はなんと女性だけ!)舞台を盛り上げていきます。期待の新人・ぴょん子ちゃんにクソババアと言われて、「何言ってんの! あんたもすぐにババアになるよ」と返す。怪しげな印象が強い見世物小屋ですが、笑いありの明るい内容なのです。
「滅びゆく演芸なんて言われてますねぇ」
大寅興行社責任者の方はそう語っていました。「今年が最後かもしれないよ」という口上は、お客さんを呼び込むためもあるかもしれませんが、本心でもあるのでしょう。
消えゆくものを記録に残したい。その思いから撮影された、大寅興行社さんのドキュメンタリー映画『ニッポンのみせものやさん』が12月8日から「新宿K’s cinema」にて公開されます。発売中の特別鑑賞券は劇場窓口で買い求めると、絵看板ポストカードがついてきます。
また、19日と20日に開かれる二の酉でも大寅興行社さんの興行は見れますので、一の酉で見逃した方もまだ安心ですよ。
“滅びゆく”と言われていても、ぴょん子ちゃんのような新人も入って来ています。リピーターも多く、差し入れだって毎年届きます。世代は変わっていっても、なんとか続いていってほしい。来年もまた花園神社で見世物小屋を見たい。
見世物小屋の中は“ぐるぐる回し”。入り口から入って、見世物をよく見ようよく見ようとしているうちに、全部見終わる頃にはちょうど出口に辿り着いているという仕組み。気付いたら、出口が目前になっていて、まるで夢を見ていたような気持ちになりながら、まだほんのり夢うつつでお代を払ったのでした。
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